ビジネスにおいて競争はつきものですが、中でもEC事業を手がける場合は、世界中の競合を相手に、より厳しい市場争いを勝ち抜く必要があります。このような状況の中、価格競争から抜け出し、ヒット商品を生み出すための武器となるのが、USPという概念です。USPは、ブランド独自の強みを際立たせ、市場での競争優位性を確立するうえで重要な要素となります。
この記事では、USPとは何か、また顧客にUSPを効果的に伝える方法を解説します。成功例も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
USPとは
USPとはUnique Selling Proposition(ユニーク・セリング・プロポジション)の略で、「顧客に対して自社だけが提供できる利益を約束すること」を意味するマーケティングの概念です。具体的には、ブランド独自の価値を見出し、それを顧客に向けて明確に打ち出すことを指します。
同じような機能を持つ製品が溢れている現代では、価格競争に陥りやすい傾向があります。USPを適切に設定できれば、価格以外の理由で顧客に自社製品を選んでもらえるようになり、結果として競争優位性を築くことができます。そのため、USPはマーケティング戦略を検討する際に非常に重視されています。
USPには、以下の3つの基準が定められています。
- 広告において、商品の購入で顧客が得られる価値が提案されている
- 他社は同じ提案をしておらず、自社固有の価値を提供している
- 多くの顧客に訴える強い力があり、新規顧客の獲得や既存顧客の維持に役立つものである
USPを設定することは、企業と顧客の双方に利益をもたらします。企業は「自分たちの強み」が明確になり、より効果的な訴求が可能になります。対して、顧客側は「なぜこの商品を選ぶべきか」が理解しやすくなるため、たくさんの選択肢の中から自分に合った商品やサービスを選ぶことができるようになります。
USPとして活用できる要素
機能と品質
競合他社を圧倒するレベルの機能や製品は、強力なUSPになります。工業製品なら丈夫さや精密さ、衣料品ならデザインや着心地、食料品なら味や栄養など特定の機能や品質に着目しましょう。競合よりも優れている点を明確にし、企業やブランドのコンセプトに織り込むことで、顧客に伝わるUSPを構築できます。
突出したサービス
他社が行っていない、手厚いサービスやサポートを提供している場合も、USPとして活用できます。例えば、語学などのスキル習得サービスを提供していて、習得までのスピードに定評があったり、独自の学習方法を確立していたりするなら、それらの価値をUSPとして設定することもできるでしょう。顧客が具体的にイメージでき、他社が簡単には模倣できないようなサービスは、効果的なUSPとなります。
選択肢の豊富さ
あるカテゴリーに特化して、商品の種類やバリエーションの豊富さが抜きん出ていれば、他社にはない強みとなります。その分野に関しては取り扱いのない商品はないと言えるほど幅広い選択肢を設けている場合、顧客にとっては自分の希望に沿う商品を見つけられるだけでなく、商品を探す時間の短縮にもつながります。これは大きな価値であり、USPとして活用できます。
コストパフォーマンス
商品・サービスの購入にあたって、価格は常に考慮されます。例えば、確実に「業界最安値」と言うことができれば強力なセールスポイントになります。また、単純な安さだけではなく同価格帯でも追加機能があるなど、コストパフォーマンスが高い場合もアピールポイントになるでしょう。
USPの見つけ方・作り方
1. 差別化要因を把握する
まずは、SWOT分析などで自社ブランドや自社商品を分析し、差別化要因をすべて洗い出します。ポイントは具体的に書き出すことです。顧客に響くマーケティングメッセージを届けて、商品をヒットさせるには、その魅力を適切にわかりやすく伝える必要があります。自社の商品が顧客の困りごとを解決するものであり、利用するメリットがあることをアピールできるよう、まずは自社の商品の良さや差別化ポイントを把握しましょう。
2. 競合分析を行う
他社の商品やUSPを競合分析して、市場で手薄となっていて自社が入り込む余地のある領域を探りましょう。商品のカテゴリーは競合他社と同じでも、ブランドポジショニング(市場内の立ち位置)は他社と大きく変えることが可能です。例えば、靴の場合でも、デザイン性、快適さ、耐久性などアピールポイントは商品によって異なります。競合分析を行い、商品特性と照らし合わせることで、USPの方向性を見出すことができます。
3. 顧客の需要を把握する
自社が差別化できる領域のうち、ターゲットオーディエンスの需要に合致するところはないか市場分析をしましょう。市場のニーズはあるものの対応しているブランドが少ない領域や、競合では対応しきれていない顧客の課題のうち自社商品なら解消できそうなものがないかを探りましょう。
4. USPの構想をまとめる
これまでの競合分析や市場分析でのリサーチ結果を元に、自社最大の「価値(売りとなるポイント)」を見極め、USPの大まかな構想を決定します。その際に役立つのが、ポジショニングステートメント(商品の市場での立ち位置や、提供する価値を説明したもの)の形に落とし込む方法です。
【ポジショニングステートメントの型の一例】
【ブランド名】は【ターゲット市場】に対して【価値提案の内容】のような価値提案を行うために【商品名やサービス名】を提供します。【競合他社名】とは異なり、当社は【主要な差別化要因】があります。
上記はECサイトの宣伝文句などにそのまま使用することはできませんが、このフォーマットを使うことで、顧客に伝えたいポイントを明確にすることができます。
5. USPを言語化する
USPの構想をポジショニングステートメントに落とし込めたら、次は顧客に響く表現にブラッシュアップしましょう。
次のような点を押さえることで、魅力がわかりやすく伝わるメッセージになります。
- 端的な文章を心がける
- 顧客が得られる利益を表す
- 差別化ポイントを具体的に示す
USPは短く簡潔にまとめることで、顧客の記憶に残りやすくなるでしょう。また、訴求ポイントとして、商品のメリットを伝えるのではなく、顧客にとっての利益を表現することが大切です。例えば、「900gの超軽量ノートパソコン」としてしまうと、単なるスペック紹介になってしまいます。「900gだから、出張も通勤もストレスゼロ」など、顧客にとって利益となるポイントを強調することで、購入意欲の向上が図れます。
また、差別化ポイントに具体性を持たせるのも効果的です。例えば「3か月で日常英会話ができるレベルに」と差別化ポイントを数値化すると記憶にも残りやすく、ブランドや製品の信頼性の向上も期待できます。
6. USPを事業全体で活用する
USPは運用次第で、ブランド名や返品ポリシーなどビジネスのさまざまな要素に織り込むことも可能です。例えば、通販サイトのASKUL(アスクル)では「今日頼めば明日来る」をUSPに設定し、ブランド名にも起用しています。
このように、一度USPを作成してしまえば、広告やランディングページ、SNSマーケティングでのコピー文など、さまざまな場面で活用できるようになります。
USPの成功例3選
1. 翠(サントリーホールディングス株式会社)

サントリーの販売するジン「翠(すい)」は、緑茶などの和素材を使った日本のクラフトジンです。これまでジンは、バーで飲むドリンクというイメージが強い傾向にありました。そんな中、サントリーでは「食事に合う日本のジン」をUSPとして打ち出しました。さらに、ハイボールやレモンサワーに次ぐ「第3のソーダ割」としてジンソーダを提案し、新商品を気軽に楽しめるお酒として売り出したことで、120億円の大ヒットを収めています。
また、商品には「翠」と名付け、広告コピーには「翠餃子(すいぎょうざ)一丁!」といった商品名に由来するコピーを起用するなど、軽やかさや清々しさを演出し、食中酒としてのイメージ付けに成功しています。USPを軸に、一貫したブランド展開を実施したことが商品のヒットにつながった好例といえるでしょう。
2. スケッチャーズ スリップ・インズ

米国発スケッチャーズのスリップ・インズのキャッチコピーは「かがまず履ける 触らず履ける 本当です」で、その名の通り、靴の中に足を滑らせる(スリップする)だけで履けるスニーカーです。スニーカー業界では、ファッション性やスポーツ性、履き心地といった要素で多くの企業が差別化を図ろうと奮闘する中、スケッチャーズでは「手を使わずに履ける」という利便性をUSPとし、新たな切り口で打ち出したことで、競争の激しい世界でも存在感を確立することに成功しました。その結果、近年ではECサイトなどの売上高も前年比20%増とも言われています。
また、若年層向け商品のイメージがあった同社ですが、ターゲットを大人世代に変更し、ターゲット層に合った広告塔を起用したことも、ブランド認知度の向上やリーチ拡大の要因となったと言えるでしょう。
3. 四谷学院

大学受験予備校の四谷学院は、電車内広告やテレビCMなどの広告において「なんで、私が東大に。」という強力なキャッチコピーを長年活用しています。数ある学習塾や予備校の中でも「東大をはじめとした、高いレベルの大学に合格できる」だけでなく、同校であれば「合格圏内に到達していなかった成績の生徒でも、合格させた実績がある」という独自の価値提供を印象付けています。これはまさに「突出したサービス」を提案するUSPの成功例だと言えるでしょう。
まとめ
USPは単なるキャッチコピーではなく、市場における立ち位置をわかりやすく示すものです。場合によっては、一貫したブランドイメージを体現するものと言えるでしょう。
アピール力のあるUSPを作るうえで、必ずしも商品自体に強い独自性をもたせる必要はありません。同じカテゴリーでも差別化できるポイントを見出し、自社が参入する余地のある、市場でも供給が手薄な領域に着目することが重要です。
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よくある質問
USPとは?
USPとは、競合他社にはない独自の強みを明確かつ簡潔に表現したものを指し、顧客に選ばれる理由を示す役割を担っています。
USPの見つけ方は?
- 自社や自社商品において差別化要因になりそうなものをすべて洗い出す
- 競合分析を行う
- 自社が差別化できる領域のうち、ターゲット層の需要や悩みに合致するところはないかリサーチする
- USPに最適な自社の「価値(売りとなるポイント)」を見極め、ポジショニングステートメントの形に落とし込む
- ポジショニングステートメントに落とし込んだものを、顧客に響くメッセージとなるようブラッシュアップする
USPはなぜ必要?
競合他社との差別化を図り、自社商品の価値を瞬時に顧客に理解してもらうためには、USPを作成することが不可欠です。USPを設定することで、既存の商品の新たな使用方法や使用場面の提案もできるため、ブランド戦略全体の抜本的改善も図れます。
文:Miyuki Kakuishi