ECサイトの運営で避けては通れない課題の一つに、カゴ落ちがあります。株式会社イー・エージェンシーの調査によると、ECサイトのカゴ落ち率は平均約63.3%にのぼり、リード(見込み顧客)のうちの6割以上が、商品を購入しようと思ったのにもかかわらず購入に至っていないということが判明しています。機会損失額は売上の約2.7倍にもおよぶことから、ネットショップで安定した収益を確保するには、カゴ落ち対策が欠かせないといえるでしょう。
この記事では、カゴ落ちの概要、カゴ落ちが発生する原因について解説しています。カゴ落ち対策も7つ紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
カゴ落ちとは

カゴ落ちとは、ECサイトでユーザーが商品をカートに入れたものの、購入手続きを完了せずにサイトを離脱してしまう現象を指します。カゴ落ちが起こる要因は、送料の高さや購入・決済プロセスの複雑さ、会員登録のハードル、サイトの信頼性不足など、さまざまです。
カゴ落ちは、コンバージョン率や購入率に大きく影響します。そのため、カゴ落ち対策は、ネットショップで売れないときの対策の中でも最重要施策の一つといえるでしょう。
カゴ落ちが発生する8つの理由

1. 送料・手数料が高い
Baymard Instituteの調査(英語)では、カゴ落ちが発生する一番の要因として、送料や手数料の高さが挙げられています。商品自体の価格だけを参考にしてショッピングしているユーザーも少なくありません。商品をカートに入れて、いざ購入しようとした段階で、想定よりも金額が高いことにはじめて気がつく人も多いでしょう。
こういった状況になると、ユーザーはページを離れて競合サイトで送料や手数料を確認したり、そもそも購入をやめようと考えたりして、カート内の商品放棄につながってしまいます。
2. アカウント登録しないと決済できない
決済にアカウント登録が必須なこともカゴ落ちの原因の一つです。今後利用するかわからないショップへアカウント登録することに抵抗を感じる顧客は多くいます。
ネットショップ運営者としては、プロモーションやマーケティングの一環として、ユーザーに会員登録してもらいたいと考えるでしょう。しかし、今後使うかわからないネットショップからのメルマガやダイレクトメールは回避したいという顧客心理が働き、結果としてカゴ落ちにつながってしまうケースが多いです。
3. 配送が遅すぎる
配送が遅すぎるのも、顧客が商品購入を断念してしまう要因になります。前述の調査からも、回答者の21%が配送の遅さを理由にカゴ落ちしていることがわかっています。
消費者のほとんどは商品を早く受け取りたいと考えています。そのため、配送に時間がかかることが決済前にわかった場合、ユーザーはページを離脱し、配送が早いネットショップに流れてしまう傾向があります。
4. 購入完了までのプロセスが長すぎる
購入完了までのチェックアウトプロセスが複雑で長いと、ユーザーは面倒に感じ、カゴ落ちが発生しやすくなります。スマートフォン利用者が増えている中、入力項目が多かったり、画面遷移が多かったりすると、便利に使えないネットショップと判断されてしまいます。複雑なプロセスは、ユーザーの購入意欲を低下させ、決済前のページ離脱を引き起こす原因になります。
5. 価格が不明確
手数料や送料が高いことに加え、商品購入にかかる合計金額が分かりにくい場合もカゴ落ちの理由になります。例えば、ネットで商品購入を検討するユーザーが日本人の場合、価格が円単位でなく他の通貨で記載されていると、金額がわかりにくいと思われてしまい、日本円で購入できるサイトへ流れてしまう要因になります。
6. いつも利用している決済方法がない
顧客がいつも利用している決済方法が使えないことも、カゴ落ちを引き起こす原因の一つです。SBペイメントサービスの調査によると、「よく利用する決済手段が使えない場合、別のネットショップで購入する」と回答した人は60%を超えました。このことからも、限られた決済方法はカゴ落ちの直接的な原因になることがわかります。
また、ユーザーはポイント還元やキャンペーンを踏まえて決済方法を選ぶことも少なくありません。こういった観点からも、いつも利用している決済手段がない場合、移動の手間がかかったとしても、他サイトへ流れやすくなります。
7. 返金ポリシーに不安がある
返品ポリシーが曖昧であったり、掲示されていなかったりすると顧客に不安を与え、カゴ落ちを誘引します。また、保証期間が極端に短い、開封後返品不可、送料が常に利用者負担など、顧客に寄り添っていない返金ポリシーも、ユーザーの購買意欲が低下する要因になります。
8. ただカートに商品を入れただけ
顧客によっては、他の通販サイトと比較するために、ひとまずカートに商品を入れておくというケースもあります。「もしかしたらここで購入する可能性もあるから、一旦カートに入れておこう」など、軽い気持ちでカートに追加しているパターンもあるでしょう。そのまま他のサイトで購入を決めるケースもあれば、カートに商品を入れたこと自体を忘れているケースもあります。単純に忘れている顧客なら、カゴ落ちメールを配信するなど購入を促す対策を講じることで、コンバージョンにつなげられる可能性もあります。
カゴ落ちを防ぐ7つの戦略

1. サイト設計を最適化する
ECサイトを最適化し、ショッピングにおける利便性を向上させることで、カゴ落ちを防ぐことができます。顧客が商品を簡単に見つけられて、かつ商品をスムーズに購入できるような動線を整えましょう。
サイト設計を見直す際は、以下の点を確認してみてください。
- 商品のカテゴリー設定は適切か:初めてサイトを訪れるユーザーにもわかりやすいカテゴリー分けにする。
- ヘッダーのナビゲーションメニューは使いやすいか:商品ページ、Aboutページ、問い合わせ、FAQページはアクセスしやすい位置に配置する。
- CTA(コール・トゥ・アクション)の位置やデザインの視認性は十分か:顧客の行動を促すCTAは、クリックしやすい大きさや配置になるよう工夫する。
- サイト全体の文字情報が多すぎないか:重要な情報が埋もれないよう、文字情報と画像やグラフィックのバランスを整える。
- ページの読み込み速度は適切か:ホームページ画像を最適化するなど、サイトスピードにも気を配る。
- 発送予定日や配送日数、合計金額が明記されているか:これらの重要な情報は商品ページや商品カートのわかりやすい位置に明記する。
- 会員登録しなくても購入できる仕組みになっているか:会員登録なしで買い物できるよう設計する、または会員登録の手間を簡略化する。
- モバイル最適化になっているか:デバイスの画面サイズに応じてウェブサイトの表示を最適化する「レスポンシブデザイン」を採用する。
2. 複数の決済手段を提供する
豊富な決済手段を提供することも、有効なカゴ落ち対策です。一般的によく利用されている支払い方法は、以下のとおりです。
例えば、世界最大のECプラットフォームのAmazon(アマゾン)では、上記で挙げたものを含め10種類の決済方法を用意しています。
3. 無料または割引配送を提供する
無料配送や割引配送も、カゴ落ち率の低下に効果的でしょう。ショップ運営者の中には、自社で送料を負担すると利益に影響がでてしまうのではないかと懸念される方もいるでしょう。次のような方法を取り入れることで、利益の確保と無料・割引配送の両立が図れます。
- 条件付きの無料配送:一定額以上の買い物をした顧客に無料配送を提供する方法
- 新規顧客向けの送料無料キャンペーン:初回購入の顧客のみを対象とした方法
- 期間限定の送料無料プロモーション:売上を増やすために、特定の期間だけ無料配送を提供する方法
- 特定商品のみ送料無料:例えば、配送コストがかからない製品など、特定商品に対して無料配送を提供する方法
- 報奨付きの送料無料:店舗アカウントへの登録など、ビジネスをサポートするアクションと引き換えに無料配送を提供する方法
自社で送料を負担するのが難しい場合は、低コストの配送方法を利用して送料を抑えたり、商品代金を送料込みにして送料無料と表示したりするのも一つの案です。
4. 顧客の不満を取り除く返品ポリシーを設定する
顧客に寄り添った配送ポリシーや返品ポリシーを設定することも、カゴ落ち対策として効果的です。ECサイトの場合、購入するまで商品を実際に見たり触れたりすることはできないため、「イメージと違った」といったトラブルに発展してしまう可能性があります。返品・交換可能期間や返送料金など、返品条件に柔軟性を持たせることで、購入意欲の向上が期待できるでしょう。
また、配送・返品ポリシーは、商品ページや決済画面など複数箇所に、かつわかりやすい位置に記載しましょう。このような対策をすることで、顧客に安心感を与え、信頼関係の構築につながります。
これらに加えて、返金・返品が発生しにくい仕組みを構築することも重要です。顧客とのトラブルを未然に防ぐために、下記のポイントを押さえましょう。
5. カゴ落ちした顧客をリターゲティングする
実際にカゴ落ちが発生した際に、リターゲティングすることで売上を促進できます。リターゲティングとはネット広告の一種で、過去に自社ウェブサイトに訪問した、または特定のアクションを取ったユーザーに再び広告を表示する仕組みのことです。すでにブランドを認知しているユーザーにアプローチできるため、一般的な広告よりもコンバージョン率が高い傾向があります。
リターゲティング方法には以下のようなものがあります。
- リターゲティング広告
- SNS
- メルマガ
- カゴ落ちメール
これらの方法の中でも、カゴ落ち対策として特に有効なのが、カゴ落ちメールの活用です。顧客がカートに追加したアイテム、サイズ、色などの商品情報のデータを収集し、カゴ落ちが発生した1〜3時間以内に購入完了を促すリマインダーメールを送ります。メルマガと比べてもかなり高い効果を期待できるため、今注目を集めているメールマーケティング手法です。
例えば、製菓・製パン材料のネットショップであるcotta(コッタ)は、以下の方法を徹底することで売上の大幅増加を達成しました。
- カート離脱の30分後、カートの中身を知らせるメールを送信する。
- 1通目で購入に結びつかない場合には23時間後に2通目を送信し、タイトルに「送料無料」と記載して購入を促す。
- ECサイトを閲覧しただけで離脱したユーザーには、閲覧商品の情報を記載したメールを最大2通送信する。
ShopifyメールやCART RECOVERLY(カートリカバリー)などのツールを使うと、カゴ落ちメールを効率的に作成・送信できます。
6. ワンクリック購入を導入する
ワンクリック購入を導入することで、購入完了までのプロセスを簡素化できます。ワンクリック購入とは、初回注文時の決済方法や配送先を記憶・使用することで、一度のクリックで商品購入が完了する決済機能のことです。チェックアウトプロセスを最適化することで、コンバージョン率の向上が期待できます。
ネットショップにワンクリック購入を導入するなら、Shop Pay(ショップペイ)がおすすめです。SNSなどショップ以外の販売チャネルでも利用できるほか、カートを経由せずに商品ページから直接決済できる「エクスプレスチェックアウト」の機能も活用できます。導入費用や月額費用は必要なく、Shopifyプラットフォームの使用料のみで利用できる点も魅力です。

7. セキュリティ対策について明記する
セキュリティ対策を万全にし、その取り組みをアピールすることも、顧客の購入意欲の向上に効果的です。小規模や個人で運営しているECサイトの場合、顧客はサイトのセキュリティ面に不安を抱き、個人情報やクレジットカード情報の入力を躊躇してしまうケースもあります。顧客が安心して買い物できるよう、次のようなセキュリティ対策を実施して、サイトに明記しましょう。
まとめ
売上に直結するカゴ落ちは、ネットショップ運営者にとって対策すべき重要な課題です。購入完了プロセスの複雑さ、不明確な価格、そして高い送料は顧客が離脱する大きな要因となります。サイト設計の改良や決済方法の追加、無料配送キャンペーンの実施など、さまざまな工夫をこらすことでこれらの問題に対処し、カゴ落ち率を下げることができます。カゴ落ちした見込み顧客に対しても、カゴ落ちメールを適切なタイミングで配信することで、効果的にアプローチできるでしょう。
この記事で紹介した7つの戦略を参考にカゴ落ち対策を実施し、オンラインストアでのカゴ落ちを減らして、収益向上を目指しましょう。
よくある質問
カゴ落ちとは?
カゴ落ちとは、ECサイトでユーザーが商品をカートに入れたものの、購入手続きを完了せずにサイトを離脱してしまうことです。「カート離脱」や「カート放棄」と呼ばれることもあります。
カゴ落ちの原因は?
- 送料・手数料が高い
- アカウント登録しないと決済できない
- 配送が遅すぎる
- 購入完了までのプロセスが長すぎる
- 価格が不明確
- いつも利用している決済手段がない
- 返金ポリシーに不安がある
- ただカートに商品を入れただけ
平均のカゴ落ち率は?
近年の調査によると、カゴ落ち率の平均は約63.3%と言われています。
カゴ落ちを防ぐには?
- サイト設計を最適化する
- 複数の決済手段を提供する
- 無料または割引配送を提供する
- 顧客の不満を取り除く返品ポリシーを設定する
- カゴ落ちした顧客をリターゲティングする
- ワンクリック購入を導入する
- セキュリティ対策について明記する
カゴ落ちメールで生かせるツールは?
- Shopifyメール
- Cuenote FC(キューノート エフシー)
- リバコン
- CART RECOVERLY(カートリカバリー)
文:Ryutaro Yamauchi





