最近、「柔軟で拡張性の高いECの新しい形」として、ヘッドレスコマースに注目が集まっています。 特に成長中のブランドや、複数のチャネルでの展開を視野に入れている企業にとっては、非常に魅力的な選択肢に見えるかもしれません。
たしかに、ヘッドレスコマースには多くのメリットがあります。たとえば「 サイトの表示速度を大幅に改善できる」「デザインや機能の変更がしやすい 開発者が得意な技術スタックを活かせる」「ブランドの世界観を細部まで自由に表現できる」とよく言い表されています。
このような話を聞くと、「導入しない手はない」と感じるかもしれません。
しかし、すべての企業にとってベストな選択肢とは限らないのも事実です。
ヘッドレスコマースは自由度が高い反面、技術的なハードルも存在し、初期設定や運用に一定のコストや手間がかかります。 そのため、「話題だから」「柔軟そうだから」と勢いで始めるのではなく、自社の課題や成長ステージに合っているかどうかを、きちんと見極めることが重要です。
この記事では、ヘッドレスコマースを効果的に活用する方法と、Shopifyがどのように数多くのブランドを支援してきたかについて、詳しくご紹介します。
ヘッドレスコマースとは

ヘッドレスコマースとは、ECサイトの「見た目(フロントエンド)」と「機能の中身(バックエンド)」を切り離して構築する方法です。
この方式では、ウェブサイトやアプリ、店頭のデバイスなど、どんな場所からでも一つの共通システムに接続して商品情報や注文処理ができるようになります。フロントエンドは自由にデザインでき、バックエンドには既存の機能をそのまま活用できます。
ヘッドレスコマースを導入すると、顧客がブランドと出会うそれぞれの場面に合わせて、最適な見せ方や使い方を設計できます。ウェブサイト、スマートフォン、音声操作、実店舗レジのPOS端末など、さまざまな場所での表示が、裏側の一つのシステムとAPI(ソフトやアプリの機能を連携させる仕組み)を通じてつながります。
たとえば、PCサイトとモバイルアプリで異なるデザインを使いたいが、どちらも同じ在庫情報や注文処理を使いたいという場合、ヘッドレスコマースであれば実現可能です。
ヘッドレスコマースの4つの主な利点

1. デザインの自由度が高い
ヘッドレスコマースの大きな魅力のひとつは、デザインの自由度が非常に高いことです。従来のようにテーマやテンプレートに縛られることなく、ブランドの世界観やユーザー体験に合わせて、理想のストアをゼロから設計することができます。
多くの企業では、まずはフロントエンド(サイトの見た目)とバックエンド(在庫や注文の管理)が一体化された仕組みを使って、スムーズにオンラインショップを立ち上げます。これはスピーディーな立ち上げや運営にとって有効な方法です。
しかし、ビジネスが成長するにつれて、顧客ごとの行動や関心に応じた、よりパーソナライズされた体験が求められるようになります。テーマをカスタマイズしてある程度対応することもできますが、それにも限界があります。
2. ウェブサイトの動作速度と効率が向上する
ヘッドレスコマースを導入すると、デバイスを問わず高速表示が可能なページを作成できます。ウェブサイトの読み込み速度向上は、直接的に売上増加につながります。
ページ表示に2〜3秒以上かかると、離脱率が急上昇する傾向があるといわれています。ユーザーは遅いページが表示されるまで待つのではなく、すぐに別のサイトへ移動します。
ヘッドレスコマースを活用することで、顧客体験を改善し、ページ読み込みの遅さによる興味低下や離脱のリスクを軽減できます。
3. 好みのツールやサービスと連携できる
異なるプログラミング言語で作られたシステム同士を連携するのは意外に難しいものです。場合によっては、業務の効率を下げたり、顧客対応に影響が出たりすることがあります。
ヘッドレスコマースはそうした課題を解消する仕組みとして注目されています。特徴は、あらゆるシステムとの連携がしやすい柔軟性の高さにあります。ERP(基幹業務システム)やPIM(商品情報管理)、IMS(在庫管理)など、すでに使っている社内システムともスムーズに接続できます。
その裏には、APIを中心とした設計があります。APIを使えば、開発者は自分が慣れたプログラミング言語やツールを使って、思い描くユーザー体験をそのまま形にすることが可能です。しかも、こうした設計は将来の変化にも強く、ビジネスやテクノロジーの進化にあわせて、無理なく柔軟に対応できます。
さらに、ヘッドレスの仕組みは“積み木”のような感覚で機能を組み合わせられるのも魅力です。
たとえば:
- 必要になった機能だけを後から追加できる
- もう使わない機能は簡単に外せる
- 大がかりなシステム再構築なしで、部分的に改修できる
このように、必要なときに必要なだけ手を加えられるため、ビジネスのスピード感を損なうことなく、システムを進化させていけるのです。
4. 多様な販売チャネルに展開してユーザーとの接点を増やせる
スマートフォンの普及やSNSの浸透により、顧客の購買行動は以前にも増して多様化しています。
今では、「パソコンでブラウザを開いて商品を検索し、ECサイトにアクセスする」といった従来の流れだけではなく、モバイルアプリ、SNS、音声アシスタント、さらには実店舗など、さまざまなチャネルで商品と出会い、購入するケースが増えています。
こうした変化に柔軟に対応できるのが、ヘッドレスコマースの大きな特長です。
APIを活用することで、異なるチャネルやデバイスともスムーズにつながりやすく、新しい接点を追加する際の開発やコストの負担を抑えることができます。
たとえば、「スマートスピーカー経由で商品を注文できるようにしたい」といったニーズが出てきた場合でも、ヘッドレスコマースならバックエンド(商品の管理や決済など)には手を加えず、音声操作に対応したフロントエンドだけを追加する形で対応可能です。
また、InstagramやPinterestなどのSNSプラットフォームが提供するソーシャルコマース機能との連携も容易になります。これらのプラットフォームが提供するAPIを利用して、自社の商品カタログや在庫情報をスムーズに連携することができます。
ヘッドレスコマースの導入を検討する際のチェックポイント

既存のシステムに限界を感じているか?
- 新しいツールや機能を追加しにくい
- フロントとバックエンドの開発が密結合していて、変更に時間がかかる
- カスタマイズの自由度が低い
サイトの表示速度やパフォーマンスの向上を考えているか?
- 購入者にとって快適な速度でサイトを表示させたい
- パフォーマンスやスピードに影響する機能をもっと細かく管理したい
- ページスピードが離脱や売上に影響しているような気がする
より独自性のある顧客体験を作りたいか?
- 現在のテーマやテンプレートのカスタマイズではできない独自のページを作りたい
- ブランドならではのユニークな顧客体験を構築したい
モバイルや新しいチャネルに力を入れたいか?
- iOS/Android向けのネイティブアプリがない、または現状のアプリの使いやすさに満足していない
- モバイルでのショッピング体験をより使いやすいものにしたいと感じている
- 実店舗やオフラインの体験とも連携したい
将来的な拡張性や柔軟性を重視しているか?
- グローバル展開やオムニチャネル戦略を考えている
- 使いたいCMSやCRMがすでにあり、導入を考えている
- 事業拡大に合わせて、システムを段階的に強化していきたい
コストを考慮する

ヘッドレスコマースを検討する際は、コストと時間を慎重に評価することが重要です。大規模なヘッドレス化プロジェクトの場合、機能性、サポートツール、カスタマイズの程度によっては初期費用が数百万円から数千万円に及ぶ可能性があります。さらに、年間のメンテナンス費用も考慮する必要があります。
一方、アプリを使用してカスタマイズしたオンライン店舗を構築する場合、モバイルアプリ、音声案内、ゲームとの連携などは、月額15,000円程度から始められる場合もあります。
ヘッドレス化のコストは構築するサイトの複雑さによって異なります。開発と実装のコストは一部に過ぎません。外部サービスへの支払い、CMSプラットフォームへの月額サブスクリプション料金、クラウドプロバイダーでのホスティング料金などの費用がかかることも考慮に入れるようにしましょう。
Shopifyでヘッドレスコマースを実現する

Shopifyは、ヘッドレスコマースへの移行を目指す数千もの企業をサポートしてきました。開発者や店舗オーナーは、Shopifyが提供する充実したヘッドレスコマース開発ツールを活用し、短期間で低コストの高品質なカスタム体験を構築してきました。Shopifyのヘッドレス化ソリューションで、適切なツールを自由に選択し、必要な機能を自由に組み合わせ、サイトの機能を拡張し、柔軟性を高めることができます。
Shopifyのヘッドレス化ソリューションには以下のようなものがあります。
- Storefront API:ShopifyのヘッドレスAPIレイヤー
- Hydrogen / Oxygen(英語):Shopifyが提供するヘッドレス化用の技術スタック
こうしたソリューションで、さまざまな規模の企業のヘッドレス化がどのようにして実現するのか詳しく見ていきましょう。
Storefront API
Storefront APIは、Shopifyのヘッドレスコマースプラットフォームの基盤です。顧客体験の実現に不可欠な、以下のようなShopifyの機能を活用できます。
- 高機能のECカートシステム
- 商品・コレクションページ
- 検索とおすすめ機能
- 状況に応じた価格設定
- サブスクリプションなどのB2B機能
Storefront APIは、フレームワーク、デバイス、プラットフォームを問わず利用できるため、開発者は既存のツールを使いつつ、新しい技術も試すことができます。Next.js、Gatsby、Astroなどの開発フレームワークを使用し、好みのホスティングサービスに展開してAPIを持つサードパーティシステムと連携することも可能です。
カナダのオンラインアパレルブランド、Kotnは、ShopifyのStorefront APIとNext.jsを使用して、2つのストアを1つに統合し、新しいCMS(コンテンツ管理システム)、カスタム商品ページ、決済を実現しました。
Storefront APIは、デバイスやチャネル、地域に関係なく、迅速な購買体験を提供します。BFCMなどの大規模なセールイベントでも制限なくページを表示でき、世界中に展開されたサーバーにより、常に高速で動作します。
一方、多くの開発者は、効率的に開発を進め、できるだけ早くサービスを市場に投入したいと考えています。そんなニーズに応えるのが、HydrogenとOxygenです。
HydrogenとOxygen
Hydrogen
Shopifyの公式開発スタックには、HydrogenとOxygenがあります。これらのツールで、開発者はShopify上で高性能かつ応答性の高い、拡張性に優れたヘッドレスコマースサイトを効率的に構築できます。
Hydrogenは、Reactベースの「Remix」(英語)というフレームワークを基盤としています。このフレームワークは使いやすさが特徴で、高品質なウェブ開発基準に準拠しています。また、ユーザー体験を向上させる「楽観的UI(処理が完了するのを待たずに最終状態にアップデートするUI)」、「ネストされたルート(ウェブページの階層構造を効率的に管理する方法)」、「段階的機能強化」などの最新機能も備えています。Hydrogenの開発スタックは一定の方針に基づいている一方で柔軟性も持ち合わせています。
例えば、ECサイトの構築に必要なパーツ(コンポーネントやフック、ユーティリティなどと呼ばれます)が、Shopifyのシステム(API)と連携しやすいように最適化され、あらかじめ用意されています。これによって開発者は、ECサイトの基本的な機能を一から作る必要がなく、効率的に開発を進めることができます。
また、スタックの各要素は、互いに最適な状態で連携できるよう調整されています。そのため、開発者は性能や保守性に妥協することなく、迅速にサイトを構築できます。さらに、既存のツールやサービスとも自由に統合できるため、使い慣れた環境を活かしながら開発を進められます。
Oxygen
Hydrogenで作られたオンラインストアは、どのクラウドホスティングサービスでも運用できますが、最も簡単で速い方法は「Oxygen」を使うことです。Oxygenは、Shopifyが提供する世界規模の分散型ホスティングサービスです。このサービスは、世界中に285か所以上のサーバー拠点を持ち、エッジ(利用者に近い場所)でウェブサイトを表示します。これにより、開発チームは完全なデプロイ(サイトの公開)管理が可能になります。さらに、Oxygenは追加料金なしでShopifyの全プランに含まれており、世界中で最高のパフォーマンスと安定稼働を保証しながら、企業のコストを抑えることができます。
最近の例では、PattaとTommy Hilfigerという有名ブランドが、HydrogenとOxygenを活用して、新しいコラボレーション商品を紹介する没入型オンラインストアを構築しました。このストアは、90年代のヒップホップ文化の雰囲気を取り入れた印象的なECサイトで、わずか14日間で構築されました。
これは、世界中の有名ブランドがHydrogenとOxygenを使ってヘッドレスECサイトを構築している例の一部に過ぎません。他にもHydrogenとOxygenを利用したShopifyの事例(英語)は多くあります。
ヘッドレスコマース導入の決め手
本記事のチェックポイントでいくつか該当するのであれば、ヘッドレスコマースの導入を検討しても良いかもしれません。
事業運営が複雑化し、価格競争ではなく顧客体験の質で差別化を図りたい場合、ヘッドレス化が将来的にベストな選択肢となる可能性があります。
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ヘッドレスコマースに関するよくある質問
ヘッドレス化とは何ですか?
ヘッドレス化とは、ECサイトの表示部分(フロントエンド)と処理部分(バックエンド)を分離することをいいます。これにより、それぞれの部分で迅速な開発やカスタマイズが可能になります。従来の一体型アプローチでは、表示部分と処理部分を同時に開発するため、急な変更が難しいという悩みがありました。
ShopifyはヘッドレスのCMS(コンテンツ管理システム)ですか?
ShopifyはヘッドレスのECプラットフォームです。出店者は他社のアプリケーションを使って表示部分を構築し、ShopifyのGraphQL Storefront APIを通じてデータを取得できます。このAPIを使えば、独自の決済フローの設計や実装、税金や関税、割引を含む概算合計を表示できるカート機能の構築も可能です。
ヘッドレスコマースを始めるにはどうすれば良いですか?
まず、現在のECプラットフォームを継続するか、変更するかを決めます。 その後、ヘッドレスCMSを選び、次に CMSとAPIを連携させます。 コストとかかる時間についても忘れずに検討しましょう。