ECサイトのアクセス数が伸び、注文数やリピーターがある程度増えたら、今度は客単価に注目してみましょう。既存顧客の一度の注文額を少し上げるだけで、売り上げに大きくつながります。ただし、高額な注文を増やすだけでは十分ではなく、顧客満足と結びついた形で客単価を伸ばすことが重要です。
本記事ではECサイトにおける客単価の意味や計算方法、そして収入だけでなく利益率向上につながる客単価の改善方法を紹介します。
客単価とは

客単価とは、顧客が一度の買い物で支払う平均額です。特定の期間の総売り上げをその期間中の顧客数で割った値で算出でき、顧客の購買行動や売上動向を理解するのに役立ちます。
単純な売り上げ規模だけでは見えにくい「顧客1人あたりの購買力」を把握できるため、マーケティング戦略や販売戦略の改善に重要な指標として使用されます。
客単価とAOVの違い
客単価とAOV(Average Order Value:平均注文額)はいずれも1回の購入で顧客が支払う平均金額を示しますが、計算方法に違いがあります。
一定期間に同じ顧客から複数回注文があった場合、客単価の計算では「顧客単位」でまとめて1回と数え、1人の顧客がその期間にどれだけ購入したかを把握しますが、AOVの計算では、注文回数をカウントします。
例えば、飲食店で複数人分を1人がまとめて支払った場合、客単価は人数分で割って算出しますが、AOVでは、単純に「1回の注文」として計算されます。
客単価の計算方法
客単価は、期間を定めた上で、次の計算式で算出します。
客単価 = 一定期間の総売上高 ÷ 同期間の総顧客数
例えば、ある1か月の売り上げが100万円、購入顧客数が200人なら、客単価は5,000円となります。
客単価の分析と活用方法
時間帯・季節・顧客層で切り分けて強化するポイントを決める
客単価を高めるには、全体をひとくくりにするのではなく、時間帯・季節・顧客層といった切り口ごとに分けて見ることが大切です。これらを比較することで、重点的に取り組むべきポイントを明確にできます。
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時間帯の切り口:1日の中でも朝・昼・夜で購買行動は異なり、さらに曜日による違いもあります。月の前半と後半で支出の傾向が変わるといった「月内のサイクル」も有効な視点です。
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季節の切り口:年間を通じて需要には波があり、例えばBFCMのようなセールシーズンやギフトシーズンには高額商品が動きやすく、長期休暇の前後にはまとめ買いが増えるといった特徴が見られます。
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顧客層の切り口:新規と既存の違い、会員ランクや地域、デバイスに加え、年齢や性別といった基本属性も重要な区分となります。
商品やサービスの特性にマッチした切り口を丁寧に検討することで、どこを強化すべきかの優先順位が見えてきます。
平均値・最頻値・中央値の役割を認識し意思決定に活かす
客単価を評価する際には、単純に平均値だけを見るのではなく、平均・最頻値・中央値の3つを組み合わせることが重要です。それぞれが異なる意味を持ち、改善の方向性を判断する材料となります。
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平均値(Mean):売り上げ全体の効率を示す指標。高額商品の影響を受けやすいため、典型的な顧客像を反映しているとは限りません。売り上げ向上策の効果を評価するのに役立つため、KPIに設定するのが有効です。
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最頻値(Mode):最も多い注文額帯を示す指標。最頻値を確認することで、顧客の多くがどの価格帯で購入しているかが把握でき、ターゲット層に直結した施策を考えやすくなります。
- 中央値(Median):データを並べたときの中央に位置する値で、分布の歪みに左右されにくい特徴を持ちます。コアな顧客層の中心額を示し、現実的な価格帯を把握するのに役立ちます。
これら3つの指標を見比べることで、改善の優先順位が明確になります。例えば、最頻値と平均値が近い場合は、多くの顧客が平均的な単価帯に集中しているため、全体を底上げする施策が有効になります。
少数の高額注文が平均値を押し上げ、最頻値が平均より低い場合には、大多数を占める層を押し上げる施策を優先すべきだと判断できます。また、最頻値が送料無料ラインの直前に集中しているケースでは、送料無料を目立たせるだけで効果が期待できるでしょう。
このように、平均値は売り上げ効果の測定、最頻値はターゲット層の把握、中央値はコア顧客の基準額の確認といった役割を意識することで、数字に基づく具体的な意思決定が可能になります。
客単価をアップさせる6つの方法

1. 商品やサービスの価格を見直す
客単価を上げる最も直接的な方法は、商品やサービスの価格を調整することです。ただし単純に値上げをするのではなく、価格設定を戦略的に工夫することが重要です。
例えば、基本プランに加えて上位グレードやプレミアム版を用意すると、一定の割合で高額プランを選ぶ顧客が現れます。さらに、心理的に買いやすい価格(1,980円、4,980円など)を設定することも、客単価の底上げに有効です。
このように、値上げ+複数価格帯+心理価格を組み合わせることで、顧客が自然に上位の商品を選びやすくなり、無理のない形で客単価を引き上げられます。

はちみつ専門店の杉養蜂園のオンラインショップでは、通常のはちみつよりも高価なマヌカハニーを看板商品とし、さらにロイヤルゼリー入り、プロポリス入りのマヌカハニーを最高ラインとして、より上位の製品の購入を促しています。
2. 無料配送などの特典を設定する
ECサイトでは「◯円以上の購入で送料無料」といった特典を設定することで、顧客があと一品を追加しやすくなります。無料配送のほか、一定金額以上でギフトやクーポンを提供する仕組みも有効です。
例えば「5,000円以上で送料無料、1万円以上でノベルティ進呈」といった段階的な特典を設定すれば、顧客の購入意欲を引き出しやすくなります。

例えばユニクロのオンラインストアでは、4,990円以上の注文で送料が無料になります。
3. セット販売やパッケージ販売を実施する
複数の商品を組み合わせてパッケージ化すると、顧客が自然に高額商品を選びやすくなります。関連性の高い商品をまとめたセット販売は特に効果的で、スキンケアなら「化粧水+乳液」、飲食なら「メイン+サイド+ドリンク」などが典型例です。割引率は大きくなくても「まとめて便利」という価値が伝わるため、客単価を無理なく引き上げることができます。

化粧品とセット販売は相性がよく、コスメ系ECの多くが実践しています。例えばFANCL(ファンケル)のオンラインショップでは、化粧液、乳液、美容液の3点セットを割引価格で販売しています。
4. アップセルやクロスセルを狙う
アップセルやクロスセルは、購入の前後で「もう少し高い商品」や「関連する別の商品」を提案する手法です。アップセルでは、上位モデルや大容量商品を提示し、クロスセルでは補完的な商品を紹介します。
例えばカメラ購入時に「ワンランク上のレンズ」を提案するのがアップセル、同時に「ケースやメモリーカード」を勧めるのがクロスセルです。
さらに、購入直前のカート画面で関連商品を提示したり、購入後に送るメールやSMSで関連商品の追加購入を促したりするなど、購入前・購入中・購入後の3つのタイミングで組み合わせると効果が高まります。単なる売り込みではなく、顧客体験を向上させる提案として設計すれば、自然に客単価を押し上げることができます。

ゴルフ専門の「つるやゴルフ」が運営するオンラインショップでは、メイン製品のゴルフクラブを一番目立たせてはいますが、ゴルフウェア、ゴルフボールなど様々な関連商品を提案し、クロスセルを促す作りとなっています。
ECサイト構築プラットフォームのShopify(ショッピファイ)では、アプリを使って効率的にアップセルやクロスセルが行えます。
- Wiser ‑ アップセルとクロスセル:顧客ごとに最適化された商品提案を表示することで、コンバージョン率と平均注文額を向上
- Candy Rack:ワンクリック購入機能で、購入後のアップセルを促す
- Releasit COD Form & Upsells:アップセル、オファーなどを含む、代金引換フォームを作成
- CartHook Post Purchase Offers:アップセルや無料ギフトなど、1回のクリックでアクション可能なバナーを追加
- BOGOS: Free Gift Bundle Upsell:特典、バンドル、ボリュームディスカウント、よく一緒に買われる商品、チェックアウトアップセルなどを作成
5. ロイヤルティプログラムを提供する
リピート顧客は客単価の向上に直結します。そのために有効なのが、ポイント制度や会員ランク制度を中心としたロイヤルティプログラムです。購入金額に応じてポイントを還元したり、一定のランク以上には限定商品や先行販売の権利を提供したりすることで、顧客の継続的な利用を促進できます。長期的に見ると、安定した売上基盤の構築にもつながります。
6. 購入時にサポートを行う
顧客が商品を購入する瞬間に適切なサポートを提供すると、安心感や利便性が高まり、結果的に客単価の向上につながります。例えば、チャット機能を通じて簡単な質問に即時対応すれば、迷っていた顧客が購入に踏み切りやすくなります。また、FAQページや返品ポリシーなどを整えるのも重要です。
さらに、支払い方法を柔軟にすることも効果的です。クレジットカードに加えて、電子マネーや分割払い、BNPL(後払い)などを用意すれば、高額商品の購入ハードルを下げられます。購入時の不安を減らし、利便性を高める工夫こそが、客単価アップの隠れた鍵になります。
まとめ
客単価は、顧客が一度の購入で平均してどれくらいの金額を支払っているかを表し、売り上げを効率的に伸ばすための重要な指標です。特定の期間の総売り上げを、その期間中の顧客数で割った値で算出できます。
単に平均値だけを見るのではなく、時間帯などの切り口や最頻値や中央値といった値も活用することで、改善点や顧客の傾向などを詳細に把握できます。
客単価を上げるには、価格の見直し、特典の設定、セット販売、アップセル・クロスセル、ロイヤルティプログラム、購入時サポートといった方法を取り入れるのが有効です。これらのデジタルマーケティング施策を自社の顧客層や商品特性に合わせて組み合わせれば、無理なく自然に客単価を押し上げられます。
重要なのは、客単価を単なる数字として捉えるのではなく、顧客の購買行動を理解し、適切な体験を設計するための指標として活用することです。客単価の向上をECサイトのKPIとして設定して、長期的な売り上げの安定と成長につなげましょう。
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よくある質問
客単価とは?
客単価とは、1人の顧客が平均してどれくらいの金額を購入しているかを示す指標です。客単価は、特定の期間の総売り上げを、その期間中の顧客数で割った値で算出できます。
ECで客単価を上げる方法は?
客単価を上げるには、価格の見直し、特典の設定、セット販売、アップセル・クロスセル、ロイヤルティプログラム、購入時サポートといった方法があります。
客単価を増やすために着目すべき指標は?
客単価を増やすためには、最頻値(モード)と呼ばれる最も頻繁に発生する注文額を調べてみましょう。
客単価とAOVの違いは?
客単価とAOVはいずれも1回の購入で顧客が支払う平均金額を示しますが、計算方法に違いがあります。
- 客単価 = 一定期間の総売上高 ÷ 同期間の総顧客数
- AOV = 一定期間の総売上高 ÷ 同期間の総注文数
文:Norio Aoki